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目的
 平方根、累乗根、対数関数、指数関数、三角関数などの「関数」(function)は中学校・高等学校で学ぶため馴染みがあると思います。一方、「行列(matrix)」に関しては指導要領の変化に伴い、大学で初めて目にする方もいらっしゃると思います。この2つの概念を合わせた「行列関数」(matrix function)は数学的にも応用的にも面白いことがいっぱいです。

 例えば、理論面では9の平方根は±3であり2種類ですが、行列の平方根は2種類だけでなく無数にあったり、場合によっては存在しないことさえあります。また、演算の側面では、高校で学んだとおり、2つの関数の積は交換可能(可換といいます)ですが、行列の積は可換とは限らない(非可換)という側面を持つことから、関数のようで関数とは異なる側面を持ちます。応用面では行列関数は、天体・宇宙のシミュレーションという大きなスケールから、量子力学計算(電子の振る舞いを調べる)、格子量子色力学計算(原子を構成する陽子・中性子を構成するクウォークとグルーオンの振る舞いを調べる)などの微小のスケールまで幅広く出てきますし、さらに近年では人工知能などの情報科学分野においても行列関数が出てきます。

 このように理論的にも応用的にも重要な行列関数ですが、残念ながら計算法に関して決定的な方法は存在していません。行列サイズが1万×1万程度ですと、既存の方法で問題ないのですが、大規模行列(例えば100万×100万以上)ですと現状ではスーパーコンピュータの力が必要のため、使える人が限られてしまいますし、問題サイズによってはメモリの制約からそもそも計算が不可能な状態になることもあります。このような大規模な行列の計算は非日常的で不要かと思われるかもしれませんが、大規模であればあるほど、現象の解像度が上昇するため、見えなかったものが見えるようになる可能性が向上するという意味で、自然科学・情報科学の研究者の自然なニーズとなっております。

 そこで、我々は大規模の行列関数計算に対応可能な行列関数計算法の確立を目指します。本目的の達成にあたり、我々が特に可能性を感じているのは、行列関数という行列の問題を、(本質的に)1次元の積分の問題として捉え直し、我が国独自の数値積分公式である二重指数関数型数値積分公式(DE公式)を用いるという方向性です。さらに対象は1変数関数ではなく、行列ですので行列ならではの様々な工夫が必要になってきます。

 本プロジェクトでは、数値線形代数、数値解析(数値積分)、精度保証の観点で相補的な理論研究を行い、自然科学・情報科学を始めとした幅広い応用分野への貢献を図るべく研究を進めて参ります。


令和2年4月23日
曽我部知広(名古屋大学)